1.装置・小道具無し、イス・箱馬有り --解説--
即興芝居なので何をやるか、何の役をやるか(そもそも無機物の役(?)の芝居をやる場合もありますが)なんて全く決まっていません。そんな状態で装置(壁・テーブルなどの大道具)や小道具なんて用意出来ようはずがありません。なので小道具は一律無し!所作は全てパントマイムで行います。これも役者の能力が問われるところですね。
そして劇場、稽古場にはほぼ必ずイスか箱馬があるはずです。座る芝居をする時にはこれを使いましょう。なぜ装置・小道具は無しなのに座るものだけあるのか、というと5分以上の空気椅子が辛かったからです。一度やってみてください。
2.効果音無し、SEは声で --解説--
効果音(SE)も小道具同様事前に準備できませんので出せません。なのでSE(サウンドエフェクト)がほしい様なアクションを伴う演技をするときは自分の声で表現します。
例『銃を突きつけて引き金を引き、弾丸が発射する時に自分で「バキューーーーン!!」って言う』と言う感じです。
文字にするとバカみたいですが、演技がキチンとできていればちゃんと良いシーンになります。
3.スタート前、上演中の相談無し --解説--
タイトルが読み上げられてスタートするまでの数秒の間や、スタートしてからの舞台外での相談は禁止です。舞台上で『即興』で物語を作る事をしているので、相談すると言うことはもうそれは『即興』ではありません。
舞台外で会話をする事自体が「相談」と疑われるので舞台上にいるときは会話自体しない様にしています。
ギリギリ「目配せ」は有り。理由は「なかなか相手に伝わらないので」。
4.メタネタ、楽屋オチはNG --解説--
メタネタとは「メタフィクションのネタ」です。天然即興で言うところのメタフィクションとは「フィクション(物語)内の登場人物がフィクション外の現実世界について言及する行為」を指します。
例えば戦国時代の話になっているのに「こんな事になってるのは山口純(本名)のせいだー!!」と言ったり、演目上での制限時間が迫っている時に「貴殿の行いのせいで芝居の残り時間が1分になってしまっておるぞ!」とか言ったり。
その物語の中ではありえない、意味がわからない(現実世界の観客から見ると意味はわかる)事を言ったりする事を指します。
楽屋オチ(楽屋ネタとも)とは「楽屋落:一部の関係者だけにわかり、一般の人にはわからない」という意味合いの元々落語の用語です。
楽屋で話している内容、極めて内輪な内容を舞台上で話してもお客様には伝わらない可能性が高いしそもそも面白く無いので使わない方が良いでしょう。
例えば学園恋愛モノのお題になった時に男子高校生を演じている山口(リアルでは既婚者)の相手役になった役者が「でもあなたは元々結婚してるじゃない!!不倫はいやよ!」などと山口が実際に既婚者であることを知らないと意味がわからない様な事を言う、とかです。
総じてメタネタも含まれる事が多いです。
5.全年齢公演は下ネタ、政治ネタ、新興宗教ネタはNG --解説--
ワークショップでは全て「全年齢公演」バージョンで行いますが、即興公演では18歳未満は出演・入場禁止の大人の即興公演『みんな!大人の即興だよ!』が存在します。
大人の即興ではタブー含め本当に何でも有りの公演(記入用紙に書いてもらう文言に規制が無い)なのですが、流石に未成年がいる時にそんな事は倫理上・条例上・法律上できないので下ネタ、政治ネタ、新興宗教ネタは禁止としています。
6.相手のセリフを否定してはいけないし、決まった事を覆してもいけない --解説--
これは即興芝居の基本ルールでもあるのですが、誰かが即興で言ったセリフに対して「違いますけど」と否定してしまうと物語が全然進まなくなります。マジで本当に進みません。
なので基本的には言ったもん勝ち、誰かのセリフには否定せずに乗っかって話を進めていかなければなりません。(とはいえ無茶苦茶な事を言われた場合は否定ではなく訂正する事もあります)。
例えばA:「よお!貨客船万景峰号!久しぶり!!」→B:「(今初めて聞いたけど)...久しぶりなのによく俺のあだ名を噛まずに言えたな」はOKで、A:「よお!貨客線万景峰号!久しぶり!!」→B:「え..? 違います、何言ってるんですか?」はNGとなります。
(訂正しなければいけない場合のパターンは、A:「よお!貨客船万景峰号!久しぶり!!」→B:「...さっき決まった俺のあだ名は子寝招き猫だよ!ちゃんと聞いとけ!!(本当にさっき決まってた)」みたいな感じです(ちなみに「ちゃんと聞いとけ!!」というツッコミはこの場合メタネタになります))
覆してはいけない事項でのわかりやすい例でいくと『部屋の中でのお芝居で、主人公が上手側にあるドアを開けて部屋に入ってきた』場合、ドアを開けて入ってこられるのは上手側のみになります。全然違う所でドアを開けると「どんだけドアあんねん」となってしまうので初めに決定した「ドアのある場所」は覆してはいけません。
ドアを開けるのももちろんパントマイムで行いますので、この場合「ドアの位置」はもちろん「ドアが開く方向」も注意しなければいけません。
「ドア」の様なものも気をつけなければいけませんが演技中は決まり事ばかりになります。登場人物の名前、性別、大体の年齢、今いる場所、家族の有無などなど、スタートしてから色んな事がバンバン決まっていきます。それらは全部覚えておく必要があります。
7.スタンバイ中に重要なワードが出るかもなのでキチンと聞いてて --解説--
演技中のミスの多くはスタンバイ(アクティングエリアの中に入るタイミングを伺っている時)に舞台上の会話をちゃんと聞いてなかったり、舞台上での役者の動きをちゃんと見てなかったりする時に起こります。
例えば上記6.の「訂正しなければいけない場合」の例の話だとBのあだ名が序盤で「子寝招き猫」と決まったのをAがちゃんと聞いてなかったので起こったミス、と言うことになります。
6.と同じですが、演技中は瞬間的に決まる事ばかりです。登場人物の名前、性別、大体の年齢、今いる場所、家族の有無などなど、スタートしてから色んな事がバンバン決まっていきます。それらを全部覚えておかないと物語は頓挫し、自分も相手も困ることになります。(なによりお客さんは基本観ているだけなので何か矛盾が起こるとすぐに気づきます)
8.演技中のキャラクターを変えるのは無し --解説--
天然即興の公演衣装は「上が明るいTシャツ、下はポケットの付いているズボン」に統一しています。どんな役をやるかわからないからこそ全員同じ、フラットな見た目になる様に同じにしています。
そんな衣装も無い状態で一人で何役もやってしまうと舞台上の役者はもちろんのこと、お客様も混乱します。話もわかりにくくなりますので一つの物語の中で複数のキャラクターを演じるのは無しにしています。
(なので人間社会での犬や、タイムスリップした先の恐竜など「喋る事ができないキャラ」で舞台上に上がってしまうと結構キツい事態になります)
9.ジェネレーションギャップに気を付けよう --解説--
天然即興では幅広い年齢層のお客様が観劇してくれますし、幅広い年齢層の役者が舞台に上がります。そんな中自分の周りの世代しかわからない様なワード(マンモスらっぴー、り、mk5、写メ、ぽんぽんぺいん、スチュワーデス、チョッキ、エモい等)を使ってしまうと話自体が全く通じなくなってしまって、最悪物語が頓挫します。
言葉をたくさん知っておくのは役者として非常に重要なスキルだとは思いますが、合わせて「どんな世代にも通じる言葉選び」ができる事も必要だと思われます。
流行り言葉も危ないですね。どこで流行っているかを認識してないと伝わらないかもしれません。
マンモスらっぴー:酒井法子が作った造語、でかいラッキー → 超ラッキー、ダメ。絶対。
り:了解 → りょうかい → りょ → り
MK5:マジ(M)でキレる(K)5秒前、もしくはマジ(M)で恋する(K)5秒前
写メ:写真付きメール → 写真
ぽんぽんぺいん:おなか傷 → お腹痛い
スチュワーデス:女性名詞 → キャビンアテンダント(男性もいる)
チョッキ:ベスト(衣料用語は頻繁に変わるので注意)
エモい:エモーショナルな感じ → 感情が揺さぶられた感じ
10.略語は基本的にやめとこう --解説--
9.と気をつける理由としては同じですが、自分が「ある程度知名度があるだろう」と思っている略語(MK5、デフォ、バケパ、アクキー、タイパ、ダイパ、サ終、バ先、とりま、ノーノー、BKB等)も伝わらなければ意味がないのでセリフとして使う際には注意が必要です。
大前提として、お客様に言葉の意味が届かなければ全く意味がありません。お客様も役者も、全員が理解できる言葉を使っていきたいですね。
(と言いつつなかなかそうはいかない場合も多いのも事実です)
MK5:マジでキレる5秒前、もしくはマジで恋する5秒前
デフォ:デフォルト、最初の状態
バケパ:バケーションパッケージ、これを使いこなせないとディズニーは楽しめないらしい
アクキー:アクリルキーホルダー、最近よく推しが固められたりしている
タイパ:タイムパフォーマンス、動画などを倍速で見たりする時間対効果(和製英語)
ダイパ:ポケットモンスター ダイアモンド・パール、ニンテンドーDS用ソフト
サ終:サービス終了、主にソシャゲ...ソーシャルゲームのサービス終了の時に使われる
バ先:バイト先、バイトぐらい略さず言え
とりま:とりあえずまぁ
ノーノー:ノーヒットノーラン、野球用語
BKB:バイク川崎バイク、お笑い芸人
11.演技中でも残り時間を気にしよう --解説--
即興公演の演技中の演者は時間を確認する事ができません。なのでタイムキーパーを立てて「残り○分」というカードをお客様に向けて提示しています。
基本的にお客様用の残り時間の提示ですので、残り時間が知りたい役者はタイムキーパーの近くへ・芝居をしながら・自然な形で・確認する様にしなければなりません。
即興芝居は台本がないのでやろうと思えばどれだけでも長くお芝居を続けられます。しかし話のスジやテーマなどがしっかり決まっていないお芝居を長く見るのはお客様の観点から言うとかなり苦痛です。
そんなわけで天然即興ではお芝居終了までの制限時間を設けております。今までは1演目10分目標にしていましたが全然終わらないので2024年から7分制限に変更しています。
12.キーワードを回収して「物語」を完結させよう --解説--
どの演目もそれぞれタイトルが設定されます。いつどこ即興なら例えば「2223年9月14日、市場で、馬が、募金した」とか「信号を待っている時、地球で、おじいちゃんが、高嶺の花を落とした」などで、それ以外の演目では基本的に「○○な話(「評判が落ちた話」とか「森の中で妖精に出会った話」とか)」がタイトルになります。
当然お客様は「その様な話が繰り広げられるんだろうな」という思いで舞台を凝視していますので、その想いに応えるべくタイトルに含まれている要素は必ず役者が表現しなければいけません。
「2223年9月14日、市場で、馬が、募金した」の例だと必ず「2223年9月14日に市場で馬が募金」しないといけません。
演者は日付を、場所を、馬をどう表現するか、そして馬がどうやって、どんな理由で募金するのかを物語を進めながら考えなければけません。や、このお題、2024年のいつどこ即興で実際にあったお題なんですが、僕はこの話では役者じゃなかったんですが、これめちゃ大変ですね。
13.ちゃんとオチをつけないと暗転(終了)しません --解説--
12.で「キーワードを回収」と言う話をしましたが、ただ単にタイトルのキーワードができていればいいわけじゃありません。我々は『お芝居』をやっているわけなので、意味のわからない「ただの状況を見せるだけの動き」はやるべきではありません。
12.の例であれば『「2223年9月14日に市場で馬が募金」して、なおかつ面白い物語』を作らないと舞台上で芝居をしている意味がない、と思ってください。演者が行うべきは『お題をこなすゲーム」ではなく『お題が含まれている面白い物語』です。
という観点で、物語的にオチがちゃんとついていなければ暗転(終了)はしませんのでご注意ください。
14.笑い待ちをしよう --解説--
お客様は非常に優しいです。笑って欲しいところでほぼ笑ってくれます。時には大爆笑になることも多々あります。
そうなった時(お客様の笑い声が大きい時)にセリフを言ってしまうと単純にお客様にセリフは届きません。
芸人さんにとっては「いろはのい」位の基本的な事らしいですが、笑いが収まるのを待ちましょう。できれば笑いが消えるちょっと前にセリフが出るといいですね。
笑いを待たないのはこれまたお客様の事を考えて無い、という事でもあると思います。
15.ヤバい時こそ前に出よう --解説--
舞台には結構奥行きがある場合が多いです。即興芝居は舞台上に何もないいわゆる「素舞台(すぶたい)」で行います。自信がない役者はだんだん奥の方に下がっていきます。狙って後ろに行くのではなく、お客様から離れるために後ろに下がるんです。
そんな心持ちで良い芝居なんて出来ようはずがありません。心と体は一体です。心がビビっていても体をなんとか前に出せばいつか心も前に出るはずです。前に出ましょう!前に出ましょう!あと単純に奥に行くと声が聞こえにくくなりますしね。
これは完全に心持ちの問題でしかないのですが、基本的に人は心細くなると話相手に近づく防衛本能があるそうです。
舞台での芝居になると明らかに「なんの考えもなく相手に近づく役者」が結構います。舞台では役者同士が近づけば近づくほどアクティングエリアの余白が広くなります。それだけ『狭い芝居』になるんです。
もちろん効果的に狙って役者のところに視線を集める場合もありますが、ただ無意にセリフを掛ける相手に近づく役者のなんと多いことか。
前に、前に出ましょう!